ChatGPTとPower Automate Desktopを活用した事務・経理業務の自動化と効率化:初心者向けガイド
序論:定型業務の繰り返しに、もう悩まない
毎日のように繰り返されるデータ入力、情報収集、レポート作成といった定型業務は、本来注力すべき戦略的な業務や創造的な仕事から貴重な時間を奪う一因となっているのではないでしょうか。多くの事務職や経理担当者の方が、こうした状況に直面されていることと存じます。
「業務を自動化できれば効率が向上するのは理解しているものの、プログラミングなどの専門知識が必要で敷居が高い」「どこから手をつけて良いかわからない」といった「自動化の壁」を感じている方も少なくないでしょう。
しかし、近年注目を集めているAI技術とRPA(Robotic Process Automation:ロボットによる業務自動化)ツールの組み合わせにより、この壁を乗り越えることが現実的になってきています。本記事では、ChatGPTとPower Automate Desktopという2つのツールを活用し、プログラミング知識を必要とせずに日々の業務を効率化するための実践的な手法をご紹介します。
新たなスキルを習得することで、定型作業から解放され、より付加価値の高い業務に集中できる働き方を実現する一助となれば幸いです

なぜ今、ChatGPTとPower Automate Desktopなのか
ChatGPT:あなたの「AIアシスタント」としての可能性

ChatGPTは、OpenAI社が開発した対話型AI(人工知能)です。自然言語処理という技術により、人間が普段使っている言葉でコミュニケーションを取ることができます。
事務・経理業務において、ChatGPTは以下のような場面で力を発揮します:
- テキスト生成・編集: メール文面の作成、報告書の下書き作成
- データ要約: 長い文書から要点を抽出
- 翻訳: 海外取引先とのやり取りでの言語サポート
- アイデア出し: 業務改善のアイデア提案や解決策の検討
特に注目すべきは、専門的なプログラミング知識がなくても直感的に使えるインターフェースです。普段の会話と同じように質問すれば、AIが適切な回答や提案を返してくれます。これにより、「思考の自動化」を支援し、判断や分析にかかる時間を大幅に短縮できます。
Power Automate Desktop:PC操作を自動化する「デジタル分身」

Power Automate Desktopは、Microsoft社が提供するRPAツールです。RPAとは、コンピューター上で行われる定型的な作業を、ソフトウェアロボット(ボット)が人間の代わりに実行する技術のことです。
このツールの特徴は以下の通りです:
- 直感的な操作: ドラッグ&ドロップで自動化の流れ(フロー)を構築
- 幅広い対応: マウス操作、キーボード入力、ファイル操作など、PC上のあらゆる作業を自動化
- 低コスト: Windows 10/11に標準搭載されており、追加費用なしで利用可能
事務・経理業務における具体的な活用例として、以下のような作業を自動化できます:
- Excelファイルへのデータ入力・転記
- Webサイトからの情報収集
- メールの自動送信
- 複数のシステム間でのデータ連携
- 定期的なレポート作成
2つのツールの相乗効果:業務改善の新たな可能性

ChatGPTとPower Automate Desktopを組み合わせることで、単独では困難な高度な自動化が可能になります。
ChatGPTの「思考」とPower Automate Desktopの「実行」の連携により、以下のような流れで業務を効率化できます:
- ChatGPTで情報の整理・分析・判断を行う
- その結果をPower Automate Desktopで自動的にシステムに入力・処理する
- 処理結果を再びChatGPTで検証・レポート化する
このアプローチは「半自動化」と呼ばれ、完全自動化よりもリスクが低く、段階的に業務改善を進められる手法として注目されています。人間の判断が必要な部分は残しつつ、単純な作業部分を自動化することで、効率性と安全性のバランスをを保つことが可能です。
実践!ChatGPTとPower Automate Desktopで業務を「半自動化」するステップ
事前準備:利用開始のための確認事項
始める前に、必要なツールの準備を行いましょう。
Power Automate Desktopは、Windows 10/11に標準搭載されています。Microsoftアカウントでサインインするだけで、すぐに利用を開始することが可能です。もし見つからない場合は、Microsoft公式サイトから無料でダウンロードできます。
ChatGPTについても、OpenAIの公式サイトでアカウント登録を行うことで利用開始できます。基本的な機能は無料で利用可能ですが、より高度な機能を利用したい場合は有料プランも検討できます。
具体的なインストール手順やアカウント作成方法については、各ツールの公式ヘルプページに詳細な説明がありますので、そちらを参照してください。
ステップ1:課題となる定型業務を特定する
自動化を始める前に、どの業務を対象にするかを明確にしましょう。以下の観点から、自動化に適した業務を選定します:
時間がかかる作業
- 毎月の売上データをExcelに手入力している
- 複数のWebサイトから価格情報を収集している
- 同じような内容のメールを何度も作成している
繰り返し行う作業
- 毎日同じ形式のレポートを作成している
- 定期的にファイルをバックアップしている
- 複数のシステムに同じデータを入力している
ミスが起きやすい作業
- 数値の転記作業
- 複数のファイル間でのコピー&ペースト
- 複雑な計算を含むデータ処理
まずは小さな作業から始めることをお勧めします。成功体験を積み重ねることで、より複雑な自動化にも取り組みやすくなるでしょう。
ステップ2:ChatGPTで自動化アイデアを具体化する
対象業務が定まったら、ChatGPTに相談して自動化の具体的な手順を検討しましょう。以下のようなプロンプト(ChatGPTへの指示文)が効果的です:
プロンプト例1:
「毎週、売上データをExcelファイルから抽出して、PowerPointの報告書に転記する作業があります。この作業をPower Automate Desktopで自動化したいのですが、どのような手順でフローを構築すれば良いでしょうか?」
プロンプト例2:
「複数のWebサイトから競合他社の価格情報を収集して、比較表を作成する作業があります。この作業を効率化するための具体的なステップを教えてください。」
ChatGPTからは、以下のような具体的な回答が回答が得られるでしょう:
- 必要なアクション(操作)の順序
- 使用すべきPower Automate Desktopの機能
- 注意すべきポイントや設定項目
- より効率的な代替手法の提案
このようにして得られた情報を基に、実際の自動化フローを構築していきます。
ステップ3:Power Automate Desktopでフローを構築する
ChatGPTから得られた手順を参考に、Power Automate Desktopで実際のフローを作成します。
Power Automate Desktopの基本操作は直感的ですが、より複雑な自動化を実現するために重要な機能をご紹介します:
変数の設定:データを一時的に保持する機能です。例えば、Excelから読み取ったデータを変数に格納し、後で別のアプリケーションに入力する際に使用します。
条件分岐:「もしこの条件が満たされた場合はAの処理、そうでなければBの処理」といった処理の流れを切り替える機能です。
ループ処理:同じ作業を繰り返し行う機能です。例えば、複数行のデータを1行ずつ処理する場合に使用します。
これらの基本機能について詳しく学びたい方は、弊社ブログの関連記事をご参照ください:
具体例1:Webサイトからの情報収集とExcelへの書き出し
シナリオ: 競合他社の製品価格を定期的に調査し、Excelで比較表を作成する
手順:
- ChatGPTに「価格情報を効率的に抽出するためのWebスクレイピング手順」を相談
- Power Automate Desktopで以下のフローを作成:
- 指定したWebサイトを自動で開く
- 価格情報が表示されている要素を特定・抽出(※Webスクレイピング:Webページから必要な情報を自動で取得する機能)
- 抽出したデータを変数に格納
- Excelファイルを開いて指定のセルにデータを入力
- ファイルを保存して閉じる
メリット: 手動で行っていた情報収集作業が自動化され、時間短縮とミス削減に貢献します。
具体例2:メールからの特定データ抽出とシステム入力
シナリオ: 顧客からの注文メールから必要な情報を抽出し、受注管理システムに入力する
手順:
- ChatGPTに「メール本文から注文番号、商品名、数量を抽出するパターン」を相談
- Power Automate Desktopで以下のフローを作成:
- Outlookの特定フォルダから未読メールを取得
- メール本文を読み込み、ChatGPTが提案したパターンでデータを抽出
- 抽出したデータを受注管理システムの入力画面に自動入力
- 処理完了後、メールに「処理済み」のフラグを設定
メリット: メール処理の時間が大幅に短縮され、入力ミスの削減にも繋がります
業務改善を加速する応用戦略と注意点

応用例:より複雑な業務への展開
基本的な自動化に慣れてきたら、以下のような応用的な活用も検討可能です。
定期的なレポート作成の自動化
- 複数のデータソースから情報を収集
- ChatGPTでデータ分析と要約を実行
- Power Automate Desktopで定型フォーマットのレポートを自動生成し、関係者への自動メール送信まで実施
社内システム間のデータ連携
- 販売管理システムから受注データを抽出
- 在庫管理システムの在庫状況と照合
- 発注の必要性をChatGPTで判断し、自動的に発注システムへデータ入力
顧客対応メールの下書き作成と送信準備
- 顧客からの問い合わせ内容をChatGPTで分析
- 適切な回答文面を自動生成
- Power Automate Desktopで下書きメールを作成
- 担当者による最終確認後の送信
効率化だけじゃない、自動化がもたらすメリット
自動化の導入は、単なる時間短縮以上の価値を組織にもたらします:
ヒューマンエラーの削減と業務品質の向上 手作業による転記ミスや計算間違いが大幅に減少し、業務の正確性が向上します。また、標準化されたプロセスにより、担当者が変わっても品質が保たれます。
定型業務からの解放による、創造的・戦略的業務への注力 自動化により創出された時間を、より付加価値の高い業務に振り向けることができます。データ分析、戦略立案、顧客対応の改善など、人間にしかできない業務に集中することが可能になります。
従業員のストレス軽減とモチベーション向上 単調な繰り返し作業から解放されることで、仕事への満足度が向上します。また、新しいスキルを身につけることで、キャリアアップの機会も広がるでしょう。
注意点と考慮事項

自動化を進める際には、以下の点に注意が必要です:
完璧を目指しすぎない:「半自動化」から始める重要性 最初から100%の自動化を目指すのではなく、人間の判断が必要な部分は残しながら段階的に進めることが重要です。これにより、リスクを最小限に抑えながら効果を実感できます。
セキュリティと個人情報保護:自動化するデータやシステムへの配慮 機密情報や個人情報を扱う場合は、適切なセキュリティ対策が不可欠です。アクセス権限の設定、データの暗号化、ログの管理など、社内のセキュリティポリシーに従って実装しましょう。
詳しくはAI利用における情報セキュリティも併せてご確認ください。
定期的なメンテナンス:システム変更や業務フロー変更への対応 システムの仕様変更や業務プロセスの見直しにより、自動化フローの修正が必要になる場合があります。定期的な動作確認と必要に応じた更新を行うことで、継続的に効果を維持できます。
よくある質問
Q: プログラミング経験が全くないのですが、本当に自動化できますか?
A: はい、可能です。ChatGPTとPower Automate Desktopは、どちらも直感的な操作で利用できるよう設計されています。まずは簡単な作業から始めて、徐々にスキルアップしていくことをお勧めします。
Q: 自動化に失敗して業務に支障が出ることはありませんか?
A: 半自動化のアプローチを取ることで、リスクを最小限に抑えられます。重要な判断部分は人間が行い、単純作業のみを自動化することから始めましょう。また、本格運用前には必ずテスト環境で動作確認を行うことを推奨します。
Q: ChatGPTの利用にコストはかかりますか?
A: 基本的な機能は無料で利用できます。より高度な機能や大量の利用が必要な場合は有料プランも検討できますが、多くの業務改善は無料プランでも十分に実現可能です。
Q: 自動化したフローが動かなくなった場合はどうすればよいですか?
A: システムの更新やWebサイトの仕様変更により、フローが動作しなくなることがあります。その場合は、ChatGPTに相談して修正方法を検討したり、Power Automate Desktopのエラーログを確認して問題箇所を特定したりしましょう。
エラーログをChatGPTのチャットに入力するのも有効です。
まとめ:自動化で拓く、あなたの新たなキャリアパス

本記事では、ChatGPTとPower Automate Desktopを組み合わせることで、プログラミング知識をお持ちでない事務職や経理担当者の方でも、日々の業務を効率化できる手法をご紹介しました。
重要なポイントを整理すると:
- 思考の自動化:ChatGPTで判断・分析業務を支援
- 実行の自動化:Power Automate Desktopで定型作業を自動化
- 段階的なアプローチ:半自動化から始めてリスクを最小化
- 継続的な改善:小さな成功を積み重ねてスキルアップ
これらのツールを活用することで、定型的な業務から解放され、より創造的で価値の高い仕事に時間を充てられるようになります。結果として、個人のスキルアップはもちろん、組織全体の生産性向上にも貢献できることと存じます。
まずは、身近な小さな作業から自動化を試してみてください。その一歩が、あなたの働き方を大きく変える出発点となることでしょう。
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