貯蓄の「見えない損失(実質価値低下)」を可視化:Excelによるシミュレーションで資産防衛

はじめに:あなたの貯蓄の実質価値は維持されていますか?
「毎月コツコツ貯金しているから安心」そう思っていませんか?
現在の経済状況下では、多くの貯蓄がインフレによる「見えない損失」に直面している可能性があります。その原因は「インフレ」です。物の値段が上がり続ける中で、銀行預金の金利はほとんど変わっていません。
2025年1月の日銀追加利上げを受けて、金利環境は大きく変化しています。メガバンクの普通預金金利は0.2%、定期預金金利は0.275%程度まで引き上げられました。ネット銀行では条件付きで普通預金金利0.20%~0.60%程度を提供しています。
マイナス金利解除前の0.001%と比べると200倍の上昇ですが、それでも年間2%程度のインフレには不足しています。このため、銀行預金だけでは、お金の実質的な価値が目減りしていくリスクは依然として存在するのです。
本記事では、この「見えない損失」を特定し、IT初学者でもExcelを用いてインフレが貯蓄に与える影響をシミュレーションする手法を解説します。
このシミュレーションを通じて、お金の「実質的な価値」を把握し、インフレ時代における適切な資産防衛の第一歩を踏み出すきっかけを提供します。
インフレとは何か?「見えない損失」の正体
物価上昇(インフレ)が貯蓄に与える影響
インフレとは、物価が持続的に上昇する経済現象のことです。
身近な例として、20年前に100円で購入できたジュースが、現在では120円や130円になっている現象が挙げられます。
同じ1万円でも、昔と今では買えるものの量が違います。例えば、10年前に1万円で購入できた食材が、今では1万2000円必要になっているとしたら、あなたの1万円の「購買力」は実質的に減少していることになります。
現在(記事作成時点)のメガバンクの普通預金金利が0.2%という状況では、お金が増えるスピードは年間0.2%です。一方、仮に年間2%のインフレが続いた場合、物価は毎年2%ずつ上昇します。つまり、メガバンクでも貯金が増えるスピードより物価が上がるスピードが10倍速いという計算になります。
ネット銀行の高金利サービス(普通預金0.40%~0.60%程度)を利用した場合でも、年間2%のインフレに対しては不十分な状況は変わりません。
「名目金利」と「実質金利」の違いを理解する
お金を考える際に重要な概念が「名目金利」と「実質金利」です。
名目金利とは、銀行が提示する表面上の金利のことです。例えば、定期預金の金利が0.002%と表示されている場合、これが名目金利です。
実質金利とは、名目金利からインフレ率を差し引いた金利のことです。計算式は以下のようになります:
実質金利 = 名目金利 - インフレ率
例えば、メガバンクの定期預金の名目金利が0.275%で、インフレ率が2%の場合、実質金利は0.275% - 2% = -1.725%となります。
ネット銀行の高金利サービス(普通預金0.40%程度)を利用した場合でも、インフレ率が2%であれば、実質金利は0.40% - 2% = -1.60%となり、依然としてマイナスです。
この実質金利がマイナスになる状況が、「見えない損失」の正体です。表面上は貯金額が微増しているように見えても、実際の購買力は年々減少していくのです。
Excelでインフレの影響をシミュレーションする
シミュレーションに必要な項目と計算式
インフレの影響を正確に把握するために、以下の項目を使用してシミュレーションを行います:
- 初期貯蓄額: 現在の貯蓄総額
- 年間インフレ率: 例えば2%や3%など、仮定するインフレ率(過去の傾向や政府目標などを参考に設定)
- 期間(年数): シミュレーションしたい年数(例:5年後、10年後、20年後)
基本的な計算式は以下の通りです:
将来の貯蓄の実質価値 = 初期貯蓄額 ÷ (1 + 年間インフレ率)^期間(年数)
この計算式により、現在の貯蓄が将来どの程度の実質的な価値を持つかを算出できます。
IT初心者でもできるExcelでのシミュレーション手順
Excelを使って、あなたの貯蓄が将来インフレでどのように変化するかを具体的に見ていきましょう。
方法1:一年ごとの推移をコピー&ペーストで算出する
この方法では、毎年の実質価値の変化を段階的に確認できます。
手順1:項目名の入力
- ExcelのA1セルに「年数」
- B1セルに「実質価値」
- C1セルに「年間インフレ率」
- D1セルに「初期貯蓄額」と入力します
手順2:初期値の入力
- D2セルにあなたの「初期貯蓄額」(例:1000000)を入力します
- C2セルに「年間インフレ率」(例:0.02 または 2%)を入力します
- A2セルに最初の「年数」として 0(現在)を入力します
- B2セルに現在の「実質価値」として =D2(初期貯蓄額)と入力します
手順3:計算式の入力(1年後)
- A3セルに「1」と入力します
- B3セルに =(B2/(1+C$2)) と入力します
この数式は、「前の年の実質価値」を「1 + インフレ率」で割ることで、1年後の実質価値を計算します。C$2の「$」マークは、インフレ率のセルを固定するためのものです。
手順4:数式のコピー
- B3セルを選択し、右下の小さな四角(フィルハンドル)をドラッグして、計算したい年数分(例えば20年後までならA22まで)B列にコピーします
- A列の年数も同様にコピーすれば、自動で年数が増えていきます
これで、一年ごとの貯蓄の実質価値がどのように目減りしていくかを確認できます。

方法2:指定した「〇年後」の価値を直接算出する
特定の年数が経過した後の実質価値を素早く知りたい場合に便利な方法です。
手順1:項目名の入力
- A1セルに「初期貯蓄額」
- B1セルに「年間インフレ率」
- C1セルに「経過年数」
- D1セルに「将来の実質価値」と入力します
手順2:値を入力
- A2セルにあなたの「初期貯蓄額」(例:1000000)を入力します
- B2セルに「年間インフレ率」(例:0.02)を入力します
- C2セルに「経過させたい年数」(例:10 または 20)を入力します
手順3:計算式の入力
- D2セルに =A2/(1+B2)^C2 と入力します
この数式は、「初期貯蓄額」を「1 + 年間インフレ率」の「経過年数乗」で割ることで、直接「〇年後」の実質価値を計算します。
これらのExcel操作により、貯蓄がインフレから受ける影響を具体的に可視化できます。

シミュレーション結果から読み取れることと対策のヒント
シミュレーション結果の解釈
Excelで計算された「実質価値」の数値から、以下のような情報を読み取ることができます:
実質価値の減少率の確認 例えば、初期貯蓄額500万円、年間インフレ率2%、20年後のシミュレーションを行った場合、実質価値は約336万円となります。これは約33%の価値減少を意味します。
インフレ率の違いによる影響 年間1%のインフレと年間3%のインフレでは、長期的に見ると実質価値に大きな差が生まれることが数値で明確に表れます。
数値を通じて「見えない損失」を認識することが、適切な資産管理の出発点となります。
インフレに負けないための対策のヒント
貯金と投資の役割分担
緊急時に必要な生活費の3〜6か月分は、流動性の高い普通預金や定期預金で確保することが重要です。これは安全性と流動性を重視した資金です。
一方で、それ以外の長期で使用予定のない資金については、インフレに対抗できる可能性のある資産での運用を検討することも選択肢の一つです。株式や不動産、インフレ連動債券などは、歴史的にインフレに対する一定の防衛力を持つとされています。
分散投資の重要性
一つの資産に集中投資することは、その資産特有のリスクを全て背負うことになります。例えば、株式のみに投資した場合、株価の下落リスクを全て受けることになります。
複数の資産(株式、債券、不動産、コモディティなど)に分散することで、各資産のリスクを相殺し、より安定した運用成果を目指すことができます。これは、「卵を一つの籠に盛るな」という投資の格言でも表現されている重要な概念です。
継続的な学習の必要性
経済環境は常に変化しており、インフレ率も固定されたものではありません。また、金融制度や税制も時代とともに変化します。
定期的に経済情勢や金融知識について学び、自身の資産状況を見直すことで、変化する環境に適応した資産管理が可能になります。書籍、セミナー、信頼できる金融情報サイトなどを活用して、継続的な学習を心がけることが重要です。
注意点と考慮事項
シミュレーションはあくまで仮定
本記事で紹介したシミュレーションは、一定のインフレ率が継続するという仮定に基づいています。実際のインフレ率は経済情勢、政府の政策、国際情勢などの影響により変動します。
過去のインフレ率の推移を参考にしつつも、将来のインフレ率を正確に予測することは困難であることを認識しておくことが重要です。シミュレーション結果は、あくまで一つの参考材料として活用してください。
個別の状況への適用
本シミュレーションは一般的な計算方法を示したものであり、個人の具体的な状況(収入の増減、支出の変動、ライフイベント、リスク許容度など)は考慮されていません。
より具体的かつ個別化された資産計画の策定には、ファイナンシャルプランナーや税理士などの専門家への相談が有効です。専門家は、あなたの具体的な状況に応じた最適な資産配分や投資戦略を提案できます。
AIとの連携
必要であれば、生成AIの活用により、より詳細な分析の実施も可能です。ただし、AIを利用する際は適切な方法で活用することが重要です。
AIを家計分析に活用する場合は、プロンプト(AI への指示方法)を適切に設定し、情報セキュリティに配慮する必要があります。また、AIの回答にはハルシネーション(事実に基づかない情報の生成)のリスクがあるため、重要な判断には必ず人間による確認が必要です。
AIに家計を相談する際の安全なプロンプト例
例:「現在の貯蓄が100万円あると仮定し、今後年間インフレ率が平均2%で推移する場合、10年後と20年後の貯蓄の実質的な購買力はどのくらいになりますか?計算式も教えてください。」
このように、個人の具体的な金融情報は入力せず、一般的な仮定に基づいた質問を行うことで、安全にAIから有用なアドバイスを得ることができます。
まとめ
本記事では、Excelを使用したインフレ影響のシミュレーション方法を通じて、貯蓄の「見えない損失」を可視化する手法を紹介しました。
漠然とした金銭的な懸念を可視化し、インフレ下における貯蓄の実質的な価値変動を認識することは、適切な資産形成の出発点となります。数値で現状を把握することで、感情的な判断ではなく、データに基づいた合理的な資産管理が可能になります。
資産管理を「煩雑な作業」ではなく、「未来への投資」と捉える視点が重要です。本シミュレーション手法を活用し、資産が将来的にどのような状況になるかを定期的に確認し、必要に応じた対策を検討することを推奨します。
本記事で紹介した内容は、ご自身の家計を見直し、未来のお金を考えるきっかけに過ぎません。さらに深く、お金の超基本から、投資、保険、仮想通貨の付き合い方、そして何より「自分で考える力」を身につけたい方は、ぜひ著書『世代を超えて学ぶ!お金と未来の教科書』をご覧ください。本書は、親子、新社会人を含む幅広い読者層に対し、変化する時代における資産形成の指針を提供します。
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