Excel Copilot活用事例:データ選別、傾向分析、外れ値特定を効率化

データ分析の「最初の一歩」をCopilotが担う

事務・経理担当者の多くが、日常業務で扱うデータの分析に課題を抱えています。

分析基準の設定方法がわからない

統計的手法の知識が不足している

どの観点から着手すべきか判断できない

こうした悩みは、専門教育の有無に関わらず多くの業務担当者が直面する課題です。

Excel Copilotは、こうした課題を解決する機能を提供します。

分析の方向性や初期洞察を対話形式で提示することで、専門知識がなくても、あるいは専門知識を持つ方でも、分析業務を効率化できます。

本記事では、実務ですぐに使えるプロンプトと、その活用による業務効率化の具体例をご紹介します。

概要解説動画

Copilotの前提条件と実行環境

利用に必要な条件

Copilotを利用するには、以下の条件を満たす必要があります。

  • 有料ライセンス: Microsoft 365などの有料サブスクリプションが必須です
  • クラウド保存: 分析対象のExcelファイルはOneDriveまたはSharePointに保存する必要があります。ローカル保存のファイルではCopilotは機能は制限されます

起動手順

Excelファイルを開いた状態で、「ホーム」タブに表示される「Copilot」ボタンをクリックします。すると、画面右側にCopilot Chatパネルが表示されます。

データ準備の原則

Copilotによる分析精度を高めるために、以下のようなデータ構造を整えておくことをおすすめします。

  • データ範囲をExcelテーブルとして定義しておくと、分析がスムーズになります(挿入タブ→テーブル)
  • 1行目に列見出し(ヘッダー)を配置する
  • 空白行や結合セルを避ける(空白セルが発生するのは構わない)

プロンプト実行の基本

Copilot Chatパネルにプロンプト(指示文)を入力して実行します。

分析の精度は、プロンプトの具体性に比例します。

曖昧な指示からは曖昧な結果しか得られませんので、できるだけ明確に指示することが大切です。

プロンプト:2つのアプローチ

プロンプト設計には、2つのアプローチがあります。

  1. 基準指定型: 変動率15%以上など、具体的な基準を明示する方法
  2. 基準委任型: 判断基準の設定自体をCopilotに任せる方法

前者は意図した通りの分析結果を確実に得たい場合に適しており、後者は専門知識が不足している場合や、最適な分析軸そのものがわからない場合に有効です。

基準を指定する方が分析精度は高くなりますが、数式でも可能なケースがあります。

基準を委任すると精度は落ちますが、数式では難しい仕事であり、AI活用の大きなメリットでもあります。

傾向分析のためのプロンプト

傾向分析では、時系列トレンドの把握、カテゴリ間の比較、変動要因の特定など、具体的な分析目的を事前に定めておくことが重要です。

サンプルデータ

月 (処理日)売上 (千円)広告費用 (千円)
2024年1月1,250150
2024年2月1,300160
2024年3月1,350170
2024年4月1,800250
2024年5月2,100280
2024年6月2,300300
2024年7月1,900200
2024年8月1,850190
2024年9月2,400320
2024年10月2,600350
2024年11月2,800380
2024年12月3,100400

活用例:基準指定型プロンプト

業務例: 営業実績データ

プロンプト例:

「営業実績」シートのデータから2024年度の四半期ごとの売上推移を分析し、特に変動率が高かった月とその原因として考えられる要素を、データに基づき提案してください。

このプロンプトでは、「変動率が高い」という基準をCopilotの判断に任せつつ、四半期という分析単位を明示しています。変動率の具体的な閾値(例:15%以上)を指定することで、より明確な結果を得ることも可能です。

活用例:基準委任型プロンプト

業務例: 営業実績データ

プロンプト例:

「営業実績」シートのデータの時系列推移を分析してください。このデータから、業務上の意思決定に最も重要となる傾向変化の観点をCopilotが独自に選定し、その観点に基づき変動が特に顕著であった期間を抽出してください。変動の原因として考えられる要素を、広告費用との関係性を含め、データに基づき詳細に説明してください。

このプロンプトは、分析軸の選定から変動要因の推論まで、一連の分析プロセスをCopilotに任せる形になっています。専門知識がない場合でも、データから業務上の示唆を効率的に引き出すことができます。

外れ値特定とデータ選別を促すプロンプト

外れ値特定の業務上のメリット

外れ値(データの大多数から大きく逸脱した値)は、分析結果の正確性に影響を与えます。外れ値を特定することで、以下のようなメリットが得られます。

  • 統計的指標(平均値、標準偏差など)の精度が向上する
  • 異常事態やルール逸脱を早期に発見できる
  • データ入力ミスを検出できる

外れ値の特定においても、基準指定と基準委任の2つのアプローチがあります。

サンプルデータ

No.処理日部署勘定科目摘要金額
12025/10/1営業交通費A社訪問電車代1,580
22025/10/1経理消耗品費文具一式4,200
32025/10/2企画会議費外部会議室利用料12,000
42025/10/3営業接待交際費顧客との会食8,800
52025/10/3経理交通費B銀行移動タクシー代3,450
62025/10/4企画旅費交通費C展示会出張費(宿泊費除く)25,600
72025/10/5営業備品費展示会用モニター購入180,000
82025/10/6経理研修費オンライン研修費用7,800
92025/10/7営業交通費顧客訪問バス代550
102025/10/7企画接待交際費顧客との懇親会15,400
112025/10/8経理通信費部署内モバイル通信料6,500
122025/10/9営業雑費資料印刷代2,100
132025/10/10企画会議費外部セミナー参加費55,000
142025/10/10経理消耗品費ファイル購入950
152025/10/11営業旅費交通費遠方出張(新幹線代)18,900

活用例:基準指定型プロンプト

業務例: 経費精算データ

プロンプト例:

「経費精算」シートの金額列のデータについて、50,000円を超えているデータを外れ値として特定してください。

企業の経費精算ルールで「5万円以上はすべて要確認」といった明確な閾値がある場合、このプロンプトが有効です。特定のルールに基づいてデータを抽出したい場合に適しています。

活用例:基準委任型プロンプト

業務例: 経費精算データ

プロンプト例:

「経費精算」シートの金額列のデータについて、この部署の一般的な経費精算の傾向から大きく逸脱していると判断される外れ値を特定してください。判断基準として、データが持つ統計的な傾向を考慮し、最も業務上の異常事態を示唆すると思われる金額の行をすべて抽出し、なぜそれが異常値だと判断したか、その論理的な根拠を併せて説明してください。

統計的知識がない場合や、不正検知など「客観的な異常値」の発見をCopilotに任せたい場合に有効です。Copilotはデータの分布や標準偏差を考慮して、統計的に有意な外れ値を自律的に判断してくれます。

サンプルでは「標準偏差」「IQR法」「Zスコア法」などの用語や手法を出力しています。

こういった単語もCopilotに質問してみるとよいでしょう。

相関関係の発見

潜在的な関係性の発見

データ項目同士の関係性(相関関係)を発見することで、業務改善の仮説を立てることが可能になります。

例えば「広告費を増やすと売上が上がるのか?」「顧客の年齢層と購入金額に関係はあるのか?」といった、数値データ同士のつながりを見つけ出せます。

Copilotに「AとBの関係性」を推論させることで、見過ごされていた傾向を可視化できます。

サンプルデータ

No.顧客ID年齢層広告接触回数購入単価
1C00130代35,500
2C00240代57,200
3C00320代24,800
4C00450代1015,000
5C00530代46,100
6C00640代710,500
7C00720代13,900
8C00850代69,800
9C00930代913,500
10C01040代811,800
11C01120代25,100
12C01250代1117,500
13C01330代58,000
14C01440代711,000
15C01520代35,800

活用例:基準指定型プロンプト

業務例: 顧客データ

プロンプト例:

顧客と広告接触シートの広告接触回数と購入単価の間に、業務上の意思決定に値する相関関係があるか否かを説明してください。もし正の相関があれば、その傾向に基づき、購入単価を向上させるためにマーケティング戦略(例:広告予算の配分)として具体的なアクションを2つ提案してください。相関の強さの根拠を数値でも示してください。

特定のデータ項目同士(変数間)に「関係がありそうだ」という仮説を持っている場合、その相関(関連性)の有無や強さを客観的に検証できます。

相関係数(関係の強さを示す数値)などの根拠とともに、実務的なアクションプランが提示されます。

活用例:基準委任型プロンプト

業務例: 顧客データ

プロンプト例:

顧客と広告接触シートで、購入単価に最も強く影響を与えていると考えられる他の要素の組み合わせをCopilotが独自に選定してください。その関係性が業務上の意思決定に値するかを説明し、関係性がある場合の具体的なアクションプランを提案してください。

どのデータ項目(変数)同士に重要な関係があるかわからない場合、データ全体から最も重要な相関(関連性)をCopilotに発見させることができます。

「何に注目して分析すべきか」という分析軸の選定そのものを任せることで、予期しない業務改善の糸口が見つかる可能性があります。

Copilotを「分析アシスタント」として活用する

活用の限界と人間の役割

Copilotの分析結果は、あくまで「判断材料の一つ」です。

以下の点を理解しておく必要があります。

  • Copilotはデータから統計的傾向を抽出しますが、因果関係を証明するわけではありません
  • 業務的文脈や定性的要因(組織文化、市場環境など)の判断は人間の役割です
  • 最終的な意思決定、責任、行動計画の策定は業務担当者が担います

総括

本記事で紹介したプロンプト設計は、以下のような効果をもたらします。

  • 分析着手のハードルを下げ、専門知識の不足を補う
  • 基準指定と基準委任を使い分けることで、状況に応じた柔軟な分析が可能になる
  • データから業務改善の具体的な示唆を効率的に引き出せる

Copilotは、データ分析のアシスタントとして、意思決定の質の向上と業務効率化に貢献します。

ただし、ツールの出力を鵜呑みにせず、業務的文脈を踏まえて批判的に検討することが、適切に活用するための前提条件となります。