【生成AI】「回答が途中で切れる・遅延・品質低下」の原因と解決策
はじめに:AIの「不調」はなぜ起こるのか
生成AIを業務で活用していて、このような経験はありませんか。
「会議議事録を要約してもらっていたら、途中で回答が止まってしまった」
「大量の売上データを分析してもらおうとしたら、応答が異常に遅くなった」
「複数の作業を同時に依頼したら、内容が曖昧で実用的でない回答が返ってきた」
このようなAIの不調は多くの場合、同じチャットで長時間作業をしていると発生します。
これらの問題は、実はAIの性能不足や単純な不具合ではありません。
「コンテキストウィンドウオーバーフロー」という現象が原因です。
コンテキストウィンドウオーバーフローとは、AIが処理できる情報量の限界を超えた状態のことです。
この現象を理解し、適切な対策を講じることで、AIはより信頼性の高い業務支援ツールとなります。
この記事では、AIの応答品質低下の根本的な原因を解明し、事務職や経理業務で即座に実践できる4つの具体的な解決策をご紹介します。
AIの応答を阻害する「コンテキストウィンドウオーバーフロー(CWO)」とは
※以下、コンテキストウィンドウオーバーフローを「CWO」と表記します。
コンテキストウィンドウの概念
AIが回答を生成する際、過去の会話内容や入力された情報、回答への思考プロセスを「文脈(コンテキスト)」として記憶する領域があります。
これを「コンテキストウィンドウ」と呼びます。
コンテキストウィンドウは、人間でいうところの短期記憶に相当します。
会話の流れや指示の詳細を一時的に保持し、それらを参照しながら適切な回答を生成します。
例えば、「先ほどの売上データについて、もう少し詳しく分析してください」という追加の依頼をした場合、AIは最初に提供された売上データを記憶していなければ、適切な回答ができません。
この記憶機能を担うのがコンテキストウィンドウです。


しかし、コンテキストウィンドウには容量の限界があります。
この限界を超えて情報が入力された状態を「オーバーフロー」と呼びます。
これは、コップに注ぐ水の量に例えることができます。コップの容量を超えて水を注ぎ続けると、水は溢れてしまいます。
同様に、AIのコンテキストウィンドウの容量を超えて情報を入力すると、古い情報から順次削除されていきます。
CWOで何が起きるか
コンテキストウィンドウオーバーフローが発生すると、以下のような現象が起こります。
情報の欠損:最初に入力した重要な指示や制約条件が削除され、AIがそれらを参照できなくなります。
回答の一貫性低下:会話の流れや文脈を理解できなくなり、論理的でない回答や、前の内容と矛盾する回答が生成されます。
応答速度の低下:限界に近い状態での処理により、回答生成に時間がかかるようになります。
回答の途中停止:一部のAIモデルでは、CWOにより新しいプロンプトを受け付けなくなり、応答が途中で停止する場合があります。
CWOが引き起こされる主な原因
CWOの根本的な原因は、AIが処理できる情報量の限界(コンテキストウィンドウ)を超えて情報が入力されることです。
この状態は、以下の3つの要因によって引き起こされやすくなります。
- プロンプトと会話履歴の総量
- 大量の参照データ
- 複雑すぎる指示
要因1:プロンプトと会話履歴の総量
プロンプトに不必要な情報や冗長な表現が含まれている場合、または長時間の会話を継続することで過去のやり取りが蓄積され、コンテキストウィンドウを圧迫します。
効率的で簡潔なプロンプトを作成しないと、この問題が発生しやすくなります。
要因2:大量の参照データ
大量のデータを一度にAIに送信することも(プロンプトに含めるデータ量が多い)、CWOの主要な原因となります。
具体例として、以下のような場面が挙げられます。
- 年間の売上データ(数百行のExcelデータ)をそのまま貼り付けて分析を依頼
- 長文の契約書や規程集を全文送信して要約を依頼
- 複数の会議議事録を同時に送信して共通点の抽出を依頼
同じチャットの利用が長時間になると、データが蓄積されるため同様の状態になります。
要因3:複雑すぎる指示
複数のタスク(例:データの分析、グラフ作成、プレゼン資料へのまとめ)を一つのプロンプトに詰め込むことも、AIの処理能力を超える要因となり、CWOを引き起こす可能性があります。
この指示の複雑化に伴い、AIが記録する必要のある情報が増加し、CWOが発生しやすくなります。
CWOを回避するための4つの解決策
解決策は主に以下の4つです。
- プロンプト(タスク)を分割
- 入力情報を事前に要約
- 役割と制約でプロンプトを最適化
- 適切なタイミングでチャットを新しく作成
解決策1:プロンプト(タスク)を分割
生成AIへの指示は、一度にすべてを詰め込むのではなく、タスクを細かく分けて与えることが効果的です。
主に2つの方法があります。


タスクをステップごとに分ける(CWO回避の効果が高い方法)
複雑なタスクは、ステップごとにプロンプトを分けて送信します。
例えば、プロジェクトの効率化を行いたい場合はまず、課題の洗い出しと解決策の提案にステップを分けます。
プロンプト例
プロンプト1:
このプロジェクトの主要な課題を3つ洗い出して。
プロンプト2:
次に、その課題に対する解決策をそれぞれ5つ提案して。
この方法の利点は、AIが一度に処理するタスクの範囲を限定するため、コンテキストウィンドウの消費を抑制し、各ステップでの回答精度を高めます。
ただし、プロンプトを複数回に分けて入力する手間が発生します。
一つのプロンプト内で実行順序を指示する(手軽に試せる方法)
一つのプロンプトの中で「まず〜、次に〜」といった言葉を使い、AIにタスクの実行順序を指示します。
プロンプト例
まずこのプロジェクトの主要な課題を3つ洗い出して。次に、その課題に対する解決策をそれぞれ5つ提案してください。
会話の流れを途切れさせずに済みますが、プロンプト全体の長さによってはCWOの可能性が残る点に注意が必要です。
解決策2:入力情報を事前に要約
長文の資料や膨大なデータをAIに処理させる場合、すべての情報を一度に入力するのではなく、あらかじめ要約することが効果的です。
人間が事前に要約する
AIに送る前に、資料を自分で読んで要点を抽出し、簡潔なテキストとしてプロンプトに含める方法です。
最も確実ですが、事前の準備に時間がかかります。
AI自身に要約させてから次の指示を出す
同じチャット内で続ける場合:手軽に実行できる反面、CWO対策としての効果は限定的です。
別のチャットで始める場合:新しいチャットはコンテキストウィンドウが空の状態から始まるため、要約文だけを貼り付けて次の指示を出すことで、CWOをより効果的に回避できます。
具体的な手順は以下の通りです。
- 最初のチャットで資料の要約を作成
- 新しいチャットを開始
- 要約文のみを新しいチャットに貼り付けて、本来のタスクを実行
解決策3:役割と制約でプロンプトを最適化
求める回答の精度を高め、不必要な情報を減らすためのプロンプトの工夫が重要です。
プロンプト例
あなたは経理担当者です。以下のデータを簡潔な箇条書きでまとめてください。重要なポイントは3つに絞って提示してください。
役割を明確にすることで、AIは回答の方向性を絞り込めます。
また、出力形式や文字数の制約を設けることで、冗長な回答を防ぎ、コンテキストウィンドウの消費を抑制できます。
プロンプト自体も記録されるため、長いプロンプトがコンテキストウィンドウを消費することも事実ですが、回答の方向性の絞り込みによる効果の方が大きいため、適切な制限をかけるプロンプトの方が有効です。
解決策4:適切なタイミングでチャットを新しく作成
CWOを未然に防ぎ、応答品質と速度を維持するための最も簡単な対策です。


チャットを新しくする基準
タスクやトピックが完全に変わる時:目的が大きく変わるタイミングでチャットをリセットします。例えば、売上分析から契約書レビューに業務が変わる場合、書籍や資料作成において本文の生成から校閲作業に移行する場合、データ入力作業から顧客対応メール作成に切り替える場合などです。
長いタスクを処理している時:レポート作成や大量データの分析など、長時間にわたるタスクでは、適切な区切りでチャットを分割します。資料作成の場合は、章やセクション、テーマごとの区切りを目安にします。例えば、月次報告書なら「売上分析」「費用分析」「来月の予測」といった各セクションの完了時点でチャットを新しくすることで、効率的な作業継続が可能です。
AIの応答に「違和感」を覚えた時:応答が途切れる、速度が遅い、質が悪いといった兆候を察知したら、新しいチャットを立ち上げます。
「引継ぎプロンプト」の活用
新しいチャットに切り替える際、過去の会話履歴をAIに要約させ、必要な情報だけを簡潔にまとめた「引継ぎプロンプト」を生成させる方法があります。
プロンプト例
これまでの会話内容を要約し、次のチャットに引き継ぐためのプロンプトを作成してください。このプロンプトには、タスクの目的、現状の進捗、そして次に実行すべきタスクを簡潔に含めてください。
この手法により、作業の中断を最小限に抑えつつ、CWO対策を行えます。
ただしCWOが進んでいる場合、引継ぎが困難になるため、時間や区切りなど何らかの基準でチャットを変えることを決めておき、速めにチャットを新しくすることが重要です。


まとめ:AIを業務効率の強力な「相棒」にするために
コンテキストウィンドウオーバーフロー(CWO)は、AIの根本的な限界ではなく、使用方法に関する問題です。
適切な対策を講じることで、この問題は効果的に解決できます。
今回ご紹介した4つの解決策を要約すると以下の通りです。
- プロンプトの分割による段階的な指示
- 事前要約による情報量の最適化
- 役割と制約による回答の絞り込み
- 適切なタイミングでのチャットリセット
これらの対策を実践することで、AIは業務を停滞させる要因ではなく、業務を加速させる強力なツールとなります。
特に事務職や経理業務における定型作業の効率化において、その効果を実感いただけるはずです。
技術の進化と未来
CWOの問題は、AI技術の発展によって今後さらに軽減されていく見通しです。
実際、ここ数年の間にAIモデルが扱えるコンテキストウィンドウの許容量は飛躍的に増大しています。
しかし、技術が進化しても、AIに効果的な指示を与えるスキルは変わらず重要です。
今回ご紹介した対策は、将来にわたってAIを活用するための基礎となる知識です。