制約条件の指定|AIに「やってはいけないこと」を明確に伝え、業務ルールを徹底させる技術

2025年12月11日

はじめに:なぜAIは勝手に「親切」をしてしまうのか?

「AIに依頼したデータ分析で、特定のルールが無視されてしまう」

「報告書作成で使ってはいけない表現が混ざる」

といった経験はありませんか?

生成AIは、ユーザーの意図を汲み取ろうとするあまり、時に独自の判断で情報を補完したり、不要な親切を加えてしまうことがあります。

しかし、事務や経理の業務において、この「独自の判断」は非効率となることがあります。

適切な制約条件の指定は、単に「やってはいけないこと」をAIに教えるだけでなく、出力の品質向上、処理の高速化、コンテキストウィンドウオーバーフロー(AIが一度に処理できる情報の許容量を超えてしまう問題)の防止といった、多くのメリットをもたらします。

本記事では、AIの自由な振る舞いを制御し、企業の規定や業務ルールといった「制約条件」を厳密に守らせるためのプロンプトエンジニアリング(AIへの指示を工夫し、より質の高い出力を得るための技術)の基本原則と実践的なテクニックを解説します。

AIを単なるツールから、信頼できる「忠実なアシスタント」へと変革し、業務効率と正確性の向上を実現しましょう。

概要解説動画

AIが制約を無視する根本原因を理解する

曖昧な指示とAIの「推測」

多くのユーザーは、(AI視点で)漠然とした指示でプロンプトを終えてしまいます。

しかし、AIは曖昧な表現を最もらしく解釈しようとし、結果としてユーザーの意図と異なる出力を生成してしまいます。

【業務例】経理データ要約での失敗ケース

経理担当者が売上データの要約をAIに依頼した際の実際の流れ:

実際の指示(プロンプト)

「割引額を考慮に入れないで売上を集計してください」

担当者の期待:すべての割引(新規顧客割引、ボリューム割引、季節限定割引等)を除外し、定価ベースでの売上総額を算出

AIの実際の出力:新規顧客割引のみ除外し、ボリューム割引や季節限定割引は含めて計算

結果:月次売上レポートの数値が期待より高く表示され、上司への報告で混乱が発生

制約と目的の優先順位の不明瞭さ

プロンプト内で、何を最も優先すべきか(例:速度 vs. 正確性、網羅性 vs. 簡潔性)が明確でない場合、AIは一般的なアルゴリズムに基づいて独自に判断します。

これにより、重要視すべき制約が軽視される可能性があります。

【業務例】顧客対応メール作成での優先順位混乱

事務担当者が、クレーム対応のメール文面作成を依頼する際:

「簡潔に」という指示 + 「謝罪の気持ちを十分に伝える」という指示

AIは両立を試みましたが、どちらをより優先すべきか判断できず、結果として:

  • 謝罪文が冗長になりすぎる
  • または、簡潔すぎて誠意が伝わらない文面になる

といった、中途半端な出力を生成してしまいました。

AIに「禁止事項」を徹底させるプロンプト作成の基本原則 ✅

原則①:具体的かつ客観的な「禁止リスト」の明示

「~しないでください」といった曖昧な否定表現ではなく、禁止事項を具体的に箇条書きでリスト化します。

【プロンプト例】内部監査レポート作成

# 禁止事項
- 感情的な表現や主観的な意見
- 過剰な敬語(「~でございます」等)
- 個人を特定できる情報
- 推測表現(「おそらく」「と思われる」等)
- 部門を直接批判する表現

【業務例】監査報告書での効果

内部監査報告書の下書きを生成する際、上記の禁止リストを適用した結果:

  • Before:「営業部の管理が甘いと思われる」という主観的表現
  • After:「該当部門における管理体制に改善の余地が確認された」という客観的表現

これにより、客観的で事実に基づいたレポートの生成が可能になりました。

原則②:役割と制約の紐付け

AIに特定の役割(例:経理監査担当、社内文書作成者)を与え、その役割に紐づく制約条件を明記します。

「あなたは◯◯として、以下のルールに従ってください」という構造が効果的です。

【プロンプト例】社内文書作成アシスタント

あなたは、弊社の厳しい情報セキュリティポリシーを遵守する社内文書作成アシスタントです。
以下の制約条件を厳格に守って業務を遂行してください。

# セキュリティ制約
- 機密情報(顧客情報、パスワード、未公開の財務データ)は、いかなる場合も出力に含めないこと
- 外部に公開される可能性のある文書では、必ず「社外秘」のマークを入れること
- データは必ず匿名化し、個人を特定できない形式にすること
- 具体的な売上数値ではなく、「前年同期比◯◯%増」のような相対表現を使用すること

【業務例】FAQ作成での個人情報保護 顧客からの問い合わせ内容を要約し、FAQページの下書きを作成させる際、AIに「プライバシー保護担当者」の役割を与えることで:

  • Before:「田中様からのご質問で...」
  • After:「お客様からのご質問で...」

個人情報の匿名化が高い精度で実行されるようになりました。

原則③:制約の優先順位と矛盾時のルール設定

複数の制約や要求が矛盾する場合に備えて、事前に優先順位と判断基準を明確に設定します。

【プロンプト例】優先順位の明確化

# 優先順位(重要度順)
1. 最優先:具体的な改善策の提示
2. 次に重要:謝罪の誠意を伝えること
3. 可能であれば:200文字以内での簡潔性

# 制約の矛盾発生時のルール
- 改善策と簡潔性が矛盾する場合:改善策を優先
- 誠意と簡潔性が矛盾する場合:誠意を優先
- 文字数が大幅に超過する場合:改善策は残し、謝罪表現を短縮

【業務例】経理レポートでの優先順位設定

月次売上レポート作成において、「詳細性」と「簡潔性」が矛盾する場合:
# 優先順位
1. 最優先:数値の正確性
2. 次に重要:前年同期比較データ
3. 可能であれば:A4用紙1枚以内

# 矛盾時のルール
- 正確性と簡潔性が矛盾:正確性を優先し、詳細データは別添とする
- 比較データと文字数制限が矛盾:比較データを残し、説明文を短縮

業務特化型:事務・経理での具体的な応用テクニック 📊

経理データ分析における「条件付き除外」プロンプト

特定の条件に合致するデータを除外して分析を行う際、具体的な除外理由や条件を数値やキーワードで厳密に指定します。

【業務例】月次売上分析での特殊取引除外

月次売上分析レポートを作成する際、上司から「通常業務ベースでの売上トレンド分析と来月予測」を求められました。

しかし、データには決算期の特別施策や内部取引が含まれており、これらを除外しなければ正確なトレンド把握ができない状況でした:

  • 決算月の特別キャンペーン売上
  • 関係会社との内部取引
  • 返品・キャンセル処理中の取引

【プロンプト例】売上データ分析

あなたは当社の月次売上分析担当者です。
提供された売上データから、以下の条件に合致する取引を除外し、残りのデータのみで要約とトレンド分析を行ってください。

# 除外条件リスト
- 取引IDが「EX-」で始まる全ての取引(特別キャンペーン関連)
- 取引日が「2025/3/1」~「2025/3/31」の期間内の取引(決算特別期間)
- 顧客名が「グループA社」「関連会社B」に該当する取引(内部取引)
- 取引金額が「0」または「負の値」の取引(返品・調整処理)
- 備考欄に「テスト」「サンプル」の記載がある取引

# 分析要件
- 除外後のデータ件数を明記すること
- 前月同期比較を必ず含めること
- グラフや表は使用せず、文章での要約のみ提供すること

【実際の効果】 このプロンプトにより、AIは高い精度で指定された取引を除外し、通常業務における正確な売上トレンドを抽出できるようになりました。

文書作成における「必須項目」と「禁止項目」の併用

求められる出力の「必須項目」と「禁止項目」を両方提示することで、AIの生成範囲をより狭く、正確に制御できます。

【業務例】稟議書フォーマット作成

社内向けの稟議書フォーマットに沿って、新規プロジェクトの概要を生成する場合、稟議書には必須の項目(目的、予算、期待効果)があり、同時に禁止される項目(個人名、憶測、過剰な装飾)があります。

【プロンプト例】新規プロジェクト稟議書作成

あなたは社内稟議書フォーマットの専門家です。
以下の要件を厳密に守り、[提供データ]に基づき新規プロジェクトの稟議書を作成してください。

# 必須項目(必ず含めること)
- [目的]:プロジェクトの概要と解決すべき課題
- [予算]:総額と内訳(人件費、設備費、その他に分類)
- [期待効果]:定量的および定性的な成果
- [担当者]:所属部署と氏名
- [期間]:開始予定日と完了予定日
- [リスク]:想定される課題と対策

# 禁止項目(絶対に含まないこと)
- 担当者以外の個人名
- 「~かもしれない」「~と思われる」といった不確実な表現
- 感情的な訴えや個人的な意見
- 400字を超える本文(各項目は簡潔に)
- 「!」「♪」などの装飾文字
- 他社の具体的な社名(競合他社は「A社」「B社」と表記)

# 出力フォーマット
項目名を【】で囲み、内容は箇条書きで記載してください。

【制約効果の比較】

制約なしの問題点

  • 感情的な表現(「素晴らしい」「きっと成功する」)
  • 曖昧な数値(「大体300万円くらい」)
  • 個人名の記載(「田中部長」)
  • フォーマット無視(項目分けなし)

制約適用後の改善点

  • 客観的で事実ベースの記述
  • 具体的な数値と内訳
  • 個人名の匿名化
  • 指定フォーマットの遵守

この手法により、フォーマットに沿った正確で読みやすい稟議書が高い精度で生成されるようになりました。

数値計算における「計算ルール」の明確化

経理業務では、同じデータでも計算方法や端数処理によって結果が変わる場合があります。

AIに具体的な計算ルールを指定することで、一貫した結果を得られます

【プロンプト例】売上集計レポート

# 計算ルール
- 消費税計算:税抜き価格×1.10、小数点以下切り上げ
- 割引計算:定価から割引額を引いた後、消費税を適用
- 端数処理:最終金額は円未満切り捨て
- 集計期間:月初1日0:00から月末23:59まで
- 除外対象:ステータスが「キャンセル」「保留」の取引

# 出力制約
- 金額は「,」区切りで表示(例:1,234,567円)
- パーセンテージは小数点第1位まで表示(例:15.7%)
- 「約」「およそ」等の曖昧な表現は使用禁止

まとめ

AIは、制約条件を明確に与えることで、ルールや規定を厳格に遵守する頼もしいパートナーとなります。✅

本記事で解説した以下のテクニックは、事務・経理業務におけるデータの正確性、文書の一貫性、そしてコンプライアンス遵守を大きく改善します:

  • 禁止リストの明示:曖昧な指示ではなく、具体的な禁止事項をリスト化
  • 役割と制約の紐付け:AIに明確な役割を与え、その責任範囲を定義
  • 必須・禁止項目の併用:何を含めるべきか、何を避けるべきかを両面から指定

プロンプトエンジニアリングのさらなる活用法については、プロンプトエンジニアリングガイドもご参照ください。

次のステップとして、まずは日常業務で最も頻繁に使用する作業から、制約条件を明確にしたプロンプトの作成を始めてみましょう。

小さな改善の積み重ねが、業務全体の効率化と品質向上につながります。