Office・PDF・画像ファイルの安全な取扱い:ファイルプロパティの確認と削除で情報漏洩対策

アイキャッチ画像:Office、PDF、画像ファイルに含まれるファイルプロパティと情報漏洩リスクを示す抽象的なイラスト。鍵や数字、データアイコンが描かれ、セキュリティとデータ管理の重要性を表現。

はじめに:見落とされがちな情報漏洩のリスクとは?

業務で日常的に扱うOfficeファイルやPDF、画像ファイルには、目に見えない「隠れた情報」が含まれていることをご存知でしょうか。

これらのファイルプロパティ(メタデータ)と呼ばれる情報は、作成者名、会社名、編集履歴、コメントなど、本来は社外に出してはいけない機密情報を含んでいる可能性があります。

特に近年、生成AI(Gemini、Claude、ChatGPTなど)がExcelやWordなどの添付ファイルに対応し始めたことで、このリスクは格段に高まっています。

AIサービスにファイルをアップロードする際、意図せずファイルプロパティに含まれる機密情報がAIに学習され、情報漏洩につながる危険性が現実的な脅威となっています。

本記事では、このような「見えない情報漏洩リスク」を理解し、実際の対策方法を身につけることで、以下のメリットを実現できます:

  • 情報漏洩リスクの大幅な低減
  • 安全なファイル共有環境の構築
  • データ管理スキルの向上と業務効率化
  • 生成AIツールの安全な活用

ファイルプロパティ(メタデータ)とは何か?その正体と記録される情報

ファイルプロパティの基本概念

ファイルプロパティ(メタデータ)とは、ファイルの内容とは別に、そのファイルに関する情報を記録したデータのことです。

例えば、Wordで作成した文書には文章の内容だけでなく、「誰が」「いつ」「どのような環境で」作成したかという情報が自動的に記録されています。

自動記録される情報の種類

Office製品やPDF作成ソフトでは、標準機能として以下のような情報が自動的に記録されます:

基本的な作成情報

  • 作成者名(Windowsのユーザー名や設定された名前)
  • 会社名・組織名
  • 作成日時・最終更新日時
  • 使用したソフトウェアのバージョン

編集履歴情報

  • 編集回数
  • 総編集時間
  • 最後に保存したユーザー名
  • リビジョン番号

コメントや注釈

  • ドキュメント内のコメント
  • 変更履歴(トラックチェンジ)
  • 校閲者の名前

※これらの情報は厳密にはファイルプロパティとは異なりますが、非表示性、自動記録性、情報漏洩リスクが共通しているため、本記事では一括して扱います

技術的な情報

  • ファイルサイズ
  • 文字数・ページ数
  • 使用されたテンプレート情報

※文字数・ページ数はドキュメント内容から算出されますが、自動記録され非表示で管理される特性から、メタデータと同様に扱います。

情報漏洩につながる具体例

実際のビジネスシーンでは、以下のような情報が意図せず漏洩するリスクがあります:

  • 社内のプロジェクト名が作成者欄に記録されている
  • 退職した元社員の名前が編集履歴に残っている
  • 社外秘の会議資料に実際の担当者名が記録されている
  • 顧客向け提案書に社内検討時のコメントが残っている

ファイルプロパティの確認方法:隠れた情報の検出と把握

情報漏洩を防ぐためには、まず現在のファイルにどのような情報が記録されているかを確認することが重要です。

Windowsでの確認手順

エクスプローラーからの基本的な確認

  1. 確認したいファイルを右クリック
  2. 「プロパティ」を選択
  3. 「詳細」タブをクリック
  4. 「作成者」「会社」「コメント」などの項目を確認
WindowsエクスプローラーでWordファイルを右クリックし、『プロパティ』を選択後、『詳細』タブでファイルプロパティ(作成者、会社、コメントなど)を確認する手順を示すスクリーンショット。

Office(Word, Excel, PowerPoint)での詳細確認

  1. ファイルを開く
  2. 「ファイル」タブをクリック
  3. 「情報」を選択
  4. 「プロパティ」セクションで詳細情報を確認
  5. 「プロパティをすべて表示」をクリックすると、より詳しい情報が表示される
Microsoft Officeアプリケーション(Excelの例)で、『ファイル』タブから『情報』を選択し、ファイルプロパティ(作成者、更新日時など)の詳細情報を確認する画面のスクリーンショット。特に『詳細プロパティをすべて表示』をクリックする箇所が示されている。

PDFファイルでの確認

ブラウザ(Chrome、Edge、Firefox等)での確認:

  1. PDFファイルをブラウザで開く
  2. 画面右上の「⋮」(縦の三点リーダー)ボタンをクリック
  3. メニューから「ドキュメントプロパティ」を選択
  4. 作成者、タイトル、件名、作成日時などの基本情報を確認
Webブラウザ(Chromeの例)でPDFファイルを開き、画面右上のメニューから『ドキュメントプロパティ』を選択し、作成者や更新日時などの基本情報を確認する画面のスクリーンショット。

※ブラウザによって表示される情報の詳細度は異なりますが、主要な個人情報や機密情報は確認できます。

画像ファイルでのExif情報確認

  1. 画像ファイルを右クリック
  2. 「プロパティ」→「詳細」タブを選択
  3. 「カメラ」「GPS」「詳細」セクションを確認
  4. 撮影日時、カメラ機種、場合によっては撮影場所の位置情報も記録されている
画像ファイルを右クリックし、『プロパティ』の『詳細』タブでExif情報(撮影日時、カメラ機種など)を確認するWindowsのスクリーンショット。

ファイルプロパティの削除方法:不要な情報を確実に消去する手順

確認作業で不要な情報が見つかった場合は、以下の方法で安全に削除できます。

Officeファイル(Word, Excel, PowerPoint)の場合

ドキュメント検査機能を使った一括削除

この機能は、ファイルプロパティ(メタデータ)だけでなく、文書内のコメント、変更履歴、非表示テキストなども含めて、情報漏洩リスクのある隠れた情報を包括的に検出・削除できる最も効率的な方法です。

※厳密にはファイルプロパティ以外の情報も含まれますが、いずれも同様の情報漏洩リスクを持つため、安全性確保の観点から一括処理を推奨します。

  1. ファイルを開く
  2. 「ファイル」タブをクリック
  3. 「情報」を選択
  4. 「ドキュメント検査」をクリック
  5. 「ドキュメント検査」ダイアログが表示されたら、内容を確認し(初期設定のままか、すべての項目にチェックが入った状態を推奨)
  6. 「検査」をクリック
  7. 検出された項目を確認し、必要に応じて「すべて削除」をクリック
ドキュメント検査機能を使った一括削除のスクリーンショット:「ファイル」タブをクリック、「情報」を選択、「ドキュメント検査」をクリック
ドキュメント検査機能を使った一括削除のスクリーンショット:「ドキュメント検査」ダイアログが表示されたら、内容を確認し(初期設定のままか、すべての項目にチェックが入った状態を推奨)、「検査」をクリック、検出された項目を確認し、必要に応じて「すべて削除」をクリック

特定のプロパティを手動で削除する方法

  1. 「ファイル」→「情報」→「プロパティをすべて表示」をクリック
  2. 削除したい情報の空白にするか、「匿名」などの汎用的な文言に置き換える
特定のプロパティを手動で削除する方法のスクリーンショット:「ファイル」→「情報」→「プロパティをすべて表示」をクリック

PDFファイルの場合

印刷機能を使った簡単な方法

  1. PDFファイルを開く(ブラウザまたはPDFビューア)
  2. 「印刷」を選択
  3. 印刷先で「PDFに保存」または「Microsoft Print to PDF」を選択
  4. 新しいファイル名で保存
  5. 生成されたPDFファイルを右クリック→「プロパティ」→「詳細」タブ
  6. 「プロパティや個人情報を削除」をクリック
  7. 「このファイルから次のプロパティを削除」を選択し、「OK」をクリック

※この手順により、元のメタデータと新たに生成されたメタデータの両方を削除できます。機密性の低いファイルに限り、PDF編集用のオンラインサービスも利用可能ですが、セキュリティリスクを十分に考慮してください。

画像ファイルの場合

ペイントや画像編集ソフトでのExif情報削除

Windows標準のペイントを使用した簡単な方法:

  1. 画像をペイントで開く
  2. 「名前を付けて保存」で別名保存
  3. 保存されたファイルを右クリック→「プロパティ」→「詳細」タブ
  4. 「プロパティや個人情報を削除」をクリック
  5. 「このファイルから次のプロパティを削除」を選択し、「OK」をクリック

※この手順により、元のExif情報と新たに生成されたメタデータの両方を削除できます。

無料ツール・オンラインサービス利用時の注意点

無料の編集ツールやオンラインサービス(PDF、Office、画像編集サービス等)を利用する場合は、ファイル形式を問わず以下の点に注意が必要です:

共通のセキュリティリスク

  • サーバーアップロード: ファイルが第三者のサーバーに送信される
  • データ保持: 処理後もファイルがサーバーに残存する可能性
  • 機能制限: 完全な削除ができない場合がある
  • プライバシー: サービス提供者による情報収集のリスク

機密性の高いファイルについては、オフラインで動作する信頼性のあるソフトウェアの使用を推奨します。

専用ツール使用時の考慮点

より詳細なExif情報の編集には専用ツールが有効ですが、以下の点を考慮してください:

  • 信頼性: 開発元が明確で実績のあるソフトウェアを選択
  • オフライン処理: 可能な限りローカル環境で処理
  • バックアップ: 元ファイルは必ず別途保管

根本的な対策:情報が記録されない・漏洩しないための予防策

削除作業は事後対応ですが、そもそも不要な情報を記録させない予防策を講じることで、より効率的で確実なセキュリティ対策が実現できます。

テンプレートファイルの活用

クリーンなテンプレートファイルを作成し、チーム内で共有することで、一貫性のあるセキュリティレベルを維持できます。

テンプレート作成手順

  1. 新規ファイルを作成
  2. ドキュメント検査を実行して情報を削除
  3. 必要最小限の基本情報のみを設定
  4. テンプレートとして保存
  5. チーム内で共有・標準化

重要な注意点

テンプレートファイルを使用しても、編集過程で新たなメタデータが記録される可能性があります。そのため、以下の点に注意が必要です:

  • 最終チェックは必須: 社外共有前には必ずドキュメント検査を実行
  • 編集者の情報: ファイル編集時に編集者の情報が自動記録される
  • コメント・変更履歴: 編集過程で追加されるコメントや変更履歴
  • 定期的な再確認: テンプレート自体も定期的にメタデータをチェック

プロパティの自動記録設定の変更

各Officeアプリケーションには、保存時に個人情報を自動削除する設定があります。この設定により、意図しない情報漏洩のリスクを大幅に低減できます。

設定手順(Word, Excel, PowerPoint共通)

  1. いずれかのOfficeアプリケーションを開く
  2. 「ファイル」タブをクリック
  3. 左側メニューから「オプション」を選択
  4. 「トラスト センター」を選択
  5. 「トラスト センターの設定」ボタンをクリック
  6. 左側リストから「プライバシー オプション」を選択
  7. 「ドキュメント固有の設定」で「ファイルを保存するときにファイルのプロパティから個人情報を削除する」をチェック※チェックできない場合は、ドキュメントの検査を実施してください。
  8. 「OK」をクリックしてすべてのダイアログを閉じる

注意点

  • 設定項目の表示名はOfficeのバージョンによって若干異なる場合があります。
  • この設定は保存時の削除機能であり、作成時の一時的な記録は防げません
  • 既存ファイルの情報削除には、別途ドキュメント検査の実行が必要
  • 設定は各ファイルごとに行う必要があります。テンプレートとして用意するファイルに設定しておくと便利です。
プロパティの自動記録設定の変更のスクリーンショット:「ファイル」タブをクリック、左側メニューから「オプション」を選択、「トラスト センター」を選択、「トラスト センターの設定」ボタンをクリック
プロパティの自動記録設定の変更のスクリーンショット:左側リストから「プライバシー オプション」を選択、「ドキュメント固有の設定」で「ファイルを保存するときにファイルのプロパティから個人情報を削除する」をチェック※チェックできない場合は、ドキュメントの検査を実施してください。

まとめ:安全なデータ管理で業務を「次のレベル」へ

ファイルプロパティ管理は、現代のデジタルビジネス環境において欠かせないスキルとなっています。本記事で解説した知識と技術を活用することで、以下の成果を実現できます:

即効性のある効果

  • 情報漏洩リスクの大幅削減
  • 法規制遵守体制の強化
  • 生成AIツールの安全な活用

長期的な優位性

  • 組織のセキュリティ文化の向上
  • ステークホルダーからの信頼獲得
  • 競争優位性の確保

実践への第一歩

明日からの業務で以下のステップを実践してみましょう:

  1. 現状確認: 現在使用中のファイルのプロパティを確認
  2. 設定変更: Officeアプリケーションの自動削除設定を有効化
  3. テンプレート作成: クリーンなテンプレートファイルの作成
  4. ルール策定: チーム内でのファイル共有ルールの確立