【PEガイド】プロンプトの構成要素: プロンプトの「骨格」とは何か?命令、背景、制約、出力形式といった主要な要素と、それぞれがAIの出力にどう影響するかを解説

日々の事務作業や経理業務において、生成AI(ChatGPT, Gemini, Claudeなど)は業務効率化、データ分析の簡素化、そして新たな可能性をもたらすツールとして注目されています。一方で、「AIを使っても期待する結果が得られない」「業務にどう適用すれば良いか不明」「望む形式で出力されない」といった課題も聞かれます。これらの要因は、AIへの適切な指示、すなわち「プロンプト」の理解と利用が不十分であることに起因します。
生成AIを最大限に活用するためには、適切な「指示」、すなわちプロンプトの提供が不可欠です。本記事では、プロンプトの「骨格」を構成する主要な要素を、IT初心者の方にも理解できるよう具体的に解説します。プロンプトの各要素がAIの出力に与える影響を理解し、実践的なプロンプト作成テクニックを習得することで、業務効率化と生産性向上が支援されます。
概要解説動画
プロンプトの「骨格」を構成する主要4要素
生成AIからの出力品質は、プロンプトの「骨格」をどれだけ明確に構築できるかに大きく左右されます。ここでは、プロンプトを構成する主要な4つの要素「命令」「背景」「制約」「出力形式」について解説します。

これらの要素は、AIがタスクを適切に実行するために欠かせません。特に、必須要素はAIに必ず伝えるべき核となる情報であり、任意要素は回答の質をさらに高めるための補足情報として活用できます。また、形式要素はAIに期待する出力の具体的な形を指定するものです。
命令(Instruction):AIに「何を」してほしいかを明確に伝える【必須要素】
AIに対する「命令」は、プロンプトの最も基本的な要素です。AIに具体的にどのようなタスクを実行してほしいのかを明確に指示します。曖昧な指示では、期待する結果は得られません。
要点:AIに実行させる具体的なタスク(例: 要約、翻訳、生成、分析)を明確に指定します。これはAIに必ず伝えるべき情報です。
AIへの影響: 命令が明確であるほど、AIは意図したタスクを正確に実行し、適切な形式と内容で回答を生成します。曖昧な指示は、AIが意図を正確に理解できず、無関係な情報や不正確な出力を生成する可能性があります。
具体的な業務例(事務)📋
シナリオ:会議の議事録から、決定事項とToDoリストを抽出したい。
命令の考え方:「議事録の要約」だけでなく、「決定事項の箇条書き」「ToDoと担当者、期限の表形式での抽出」という具体的なタスクを指示します。
プロンプト例:
以下の議事録から、決定事項とToDoリストを抽出してください。
決定事項は箇条書きで、ToDoリストは「ToDo」「担当者」「期限」の3列の表形式で出力してください。
[ここに議事録の内容を貼り付ける]
思考プロセス:このプロンプトは、単に「要約」ではなく「抽出」という具体的な行動、さらに「箇条書き」「表形式」という出力の構造まで指示することで、AIが明確にタスクを実行できるようにしています。
背景(Context):AIに「状況」を理解させる【必須要素】
「背景」は、AIがタスクを適切に実行するために必要な、関連する情報や状況を伝える要素です。背景情報があることで、AIはより文脈に沿った、精度の高い出力を生成できます。
要点:AIがタスクを理解するために必要な追加情報(目的、対象データ、前提知識、関連する部署や役割など)を提供します。これはAIに必ず伝えるべき情報です。
AIへの影響:背景情報が豊富であるほど、AIは与えられたタスクの意図を深く理解し、より的確で関連性の高い回答を生成します。AIはあなたの具体的な業務状況や意図を自動的に理解することはできません。
具体的な業務例(経理)💰
シナリオ:月次決算報告書を作成するために、特定の勘定科目(例:消耗品費)の変動理由を分析したい。
背景の考え方:単に「消耗品費の変動理由を教えて」ではなく、「〇〇社の月次決算で、消耗品費が前月比15%増加している。この増加要因について、過去のデータや季節変動の傾向を考慮して分析してほしい。」といった背景を与えます。
プロンプト例:
あなたは企業の経理担当者です。
以下の月次決算データにおいて、消耗品費が前月比15%増加しています。
この増加要因について、過去3ヶ月の消耗品費データと季節変動の一般的な傾向を考慮して分析し、考えられる理由を3つ挙げてください。
[ここに月次決算データと過去3ヶ月の消耗品費データを貼り付ける]
思考プロセス:「経理担当者」という役割(ペルソナ)と「前月比15%増加」という具体的な数値、さらに「過去3ヶ月のデータ」「季節変動の傾向」という追加情報を背景として与えることで、AIはより深い分析を行うことが可能になります。
制約(Constraint):AIの「自由度」をコントロールする【任意要素】
「制約」は、AIの出力に対する制限やルールを設定する要素です。これにより、AIが不適切な内容を生成したり、意図しない形式で出力したりするのを防ぎます。この要素は、回答の質を向上させる補足情報として機能します。。
要点:出力の長さ、使用する用語、含めるべき情報、除外すべき情報、文字数制限、禁止事項などを指定します。望まない出力を防ぐ上で重要な要素です。
AIへの影響:制約が明確であるほど、AIは指定された範囲内で回答を生成し、不適切な出力を抑制します。これにより、情報の正確性や目的に合致する度合いが高まります。
具体的な業務例(データ分析)📊
シナリオ:顧客アンケートの自由記述欄から、ポジティブな意見とネガティブな意見を抽出し、それぞれを要約したい。ただし、個人情報は一切含めないようにしたい。
制約の考え方:「ポジティブ/ネガティブな意見のみ抽出」「個人情報は含めない」「要約は100字以内」といった具体的な制約を与えます。
プロンプト例:
以下の顧客アンケートの自由記述から、ポジティブな意見とネガティブな意見をそれぞれ抽出し、200字以内で要約してください。
ただし、個人を特定できる情報(氏名、連絡先など)は一切含めないでください。
[ここに顧客アンケートの自由記述内容を貼り付ける]
思考プロセス:「個人情報を一切含めない」という制約を明確にすることで、情報漏洩リスクを低減し、安全なデータ分析を促進します。
出力形式(Format):AIに「どのように」出力してほしいかを伝える【形式要素】
「出力形式」は、AIに回答の構造やレイアウトを指定する要素です。これにより、AIの出力が利用しやすい形で提供され、後工程での加工や分析が容易になります。これは期待する出力形式を具体的に指定するものです。
要点:表形式、箇条書き、JSON、Markdown、特定のテンプレートなど、期待する出力の構造を指定します。
AIへの影響:出力形式を具体的に指定することで、AIはその形式に沿って回答を生成し、情報の整理と利用効率が向上します。
具体的な業務例(事務)📝
シナリオ:複数の部署から提出された経費申請データを集計し、Excelで扱いやすい形式に変換したい。
出力形式の考え方:「カンマ区切り(CSV)形式で」「ヘッダー行を含めて」「特定の列の順序で」といった具体的な形式を指定します。
プロンプト例:
以下の経費申請データを、以下の列順序でCSV形式に変換してください。
ヘッダー行を含め、各項目はカンマで区切ってください。
列順序: 申請日, 部署名, 申請者名, 費目, 金額, 承認状況
[ここに経費申請データ(テキスト形式など)を貼り付ける]
思考プロセス:CSV形式という明確な出力形式を指定することで、AIが生成したデータをそのままExcelに取り込み、集計作業をスムーズに進めることが可能になります。
プロンプト作成のヒントと応用例 💡
これら4つの要素を組み合わせることで、より複雑で精度の高いプロンプトを作成できます。
プロンプトの思考プロセス
ステップ1: 何をさせたいか(命令)【必須】:まず、AIに実行してほしい具体的なタスクを明確に言語化します。これは、AIの行動を決定する核となる情報です。
ステップ2: 状況を理解させる(背景)【必須】:次に、命令をAIが正確に理解し、適切に実行するために必要な追加情報や前提条件を提供します。対象データや目的などもここに含まれます。
ステップ3: 自由度をコントロールする(制約)【任意】:AIの出力に制限を設けたり、特定のルールを遵守させたりすることで、期待しない出力や不適切な内容を防ぎます。これは、回答の質をさらに高めるための補足情報です。
ステップ4: どのように出力してほしいか(出力形式)【形式要素】:最後に、AIにどのような構造やレイアウトで回答を提供してほしいかを具体的に指定します。これにより、AIの出力が利用しやすい形で得られます。
この思考プロセスは、プロンプト改善の具体的なステップと関連しています。
事務・経理・データ分析への応用
報告書作成の効率化:定型的な月次報告書のドラフトをAIに生成させる際に、目的、期間、含めるべきデータ項目(背景)、文字数やトーン(制約)、Markdown形式(出力形式)などを指定します。
データ整理・加工(データクレンジング):顧客リストの重複データをAIに特定させる際、重複の定義(命令)、対象データ(背景)、特定後の処理方法(制約)、CSV形式での出力(出力形式)などを指定します。
「データクレンジング」とは、データに存在する誤り、不整合、重複、欠損などを特定し、修正・削除・補完することで、データの品質を高める作業を指します。AIやデータ分析の活用が広がる中で、ビジネスにおける重要なプロセスとして一般化しつつある用語です。
契約書レビューの補助:特定の条項の有無や、リスク条項の抽出をAIに依頼する際、対象の契約書(背景)、チェックすべき条項のリスト(命令)、発見時の報告形式(出力形式)などを指定します。
まとめ
プロンプトの「骨格」である「命令」「背景」「制約」「出力形式」の4つの要素を理解し、適切に組み合わせることで、生成AIの能力を最大限に引き出し、あなたの業務を劇的に効率化し、生産性を向上させることが可能です。
まずはこれらの要素を意識し、日々の業務に生成AIの活用を開始してください。プロンプトを継続的に改善することで、AIは業務の強力なパートナーとなり得ます。この知識が、業務改善と新たな可能性の発見に繋がることを期待します
Q&Aセクション
Q1: プロンプトが長くなるとAIの処理に時間がかかりますか?
プロンプトの長さは処理時間に影響を与える場合があります。しかし、適切かつ詳細な指示を含めることで、期待する出力を一度で得られる可能性が高まり、結果として全体の作業時間を短縮できます。冗長な記述や無意味な情報は、処理効率の低下だけでなく、AIの理解を妨げる可能性があるため、必要な情報を簡潔に記述することが重要です。
Q2: 業務における機密情報は、プロンプトに含めても安全でしょうか?
機密情報を取り扱う場合は、利用するAIサービスのセキュリティポリシーの確認が必須です。必要に応じて、情報の仮名化やマスキングを検討することを推奨します。詳細なセキュリティ対策については、生成AI利用における情報セキュリティと安全対策に関する別途解説を参照してください。
Q3: 期待通りの出力が得られない場合、具体的にどこを見直すべきでしょうか?
まず「命令」が具体的で明確であるかを確認してください。次に「背景」情報が十分であるか、「制約」が適切に設定されているか、「出力形式」が明確であるかを順次見直すことが効果的です。
関連コンテンツ
プロンプトエンジニアリングの詳細については、プロンプトエンジニアリングガイドのハブページをご参照ください。